XS1100 Midnight Special (3535/7670)
☆
高校生のときに憧れていたこと
昨年末の良くあるテレビのいちコーナーで、今年(2013年)一年に鬼籍に入った人の冥福を祈るというのがあって、その中で戸井十月氏が7月に亡くなっていたことを知った。ずいぶん長い間聞いていなかった名前だった。
高校生のとき、大学生の時もだが、小遣いが許せばバイク関係の本、書店で見かけるとよく買った。今は道路の新設の立ち退きで廃業、跡形もなくなった近所の小さな、漫画本とか文庫本程度しか置いてないような書店で買ったのが、戸井十月氏の本だった。ロサンゼルスの海岸からニューヨークまでヤマハのミッドナイトスペシャルで走ったときの紀行文。本の題名すら忘れていたが、便利な時代になったもので、ググったらすぐに分かった。「往く道は、風―北米大陸横縦断バイク一万四千キロ」といったらしい。本の名前さえ忘れていたが、確かに、ある意味時代的というか、厨二的というか、気恥ずかしいかもしれない表題だったかもしれない。
何もない田舎の少年が、そこにないものに憧れる、なんていうのは、よくある光景で、ありがちな逃避ではある。ただ、何時間も、かなりのスピードで走っても変わらない周りの風景、その中を走ると、何か心の中のモヤモヤみたいなものが漂白されたりするのだろうか、と、ぼんやりと考えていただけなのかもしれない。多分その程度だったのだろう。しかし、丁度今の季節だ、まとわりつくような湿気や熱気の中、かの本を繰り返して読んでいたような気がする。本も既に手元になく、正確に当時何を思っていたのかなど、ほとんど思い出せはしないのだが。
サーフィンにも憧れていたな。ジャン・マイケル・ヴィンセント主演のビッグ・ウェンズデイだったか、ああいう青春も、身の周りでは考えられなかったが、それより波がチューブを巻くなどというのが信じられなかった。あの中の光景はどういうものだろう、とか、一日、板の上で波と戯れているそういう生活を続けると、どのような心持になるのだろうとか、考えた。
考えるだけ。憧れるだけ。
すぐにそんなこと等は忘れてしまい、っていうか、その程度の思いいれだったということは、やはり、ただの逃避だったのだろう。いずれも実現しようとすることも、まして、実現させたこともなく、この歳になってしまった。
少年の時の自分に何やら詫びたい気分にもなってしまうが、逆に、今思い立ってそれを形だけ実現させるというのも、何やら違う気もしている。
少年の時の自分に何やら詫びたい気分にもなってしまうが、逆に、今思い立ってそれを形だけ実現させるというのも、何やら違う気もしている。
そして、ひょっとして、初恋以上に、あれは大事な気持ちだったのかもしれない、そんな風にも、今となっては思う。
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