ラベル 創作 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 創作 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2025年9月8日月曜日

《創作》寝取られ幽霊 第5話 幽霊が非合法で儲けたお金を奪取するのは犯罪か否か?

 



 さて、蓮がゆるゆる清彦が辿った生前のことを悪夢として見ていた間、それは、別に清彦が意図して自分の体験を見せていたわけではなく、蓮の前に顕現した時に引っ張ってきてしまったのだが、ご本人、霊格高いとおっしゃってるが、幽霊は幽霊、別に付き合って寝る必要もなく、暇だからというわけではないが、歌舞伎町の片隅にある、一階は入り口が乱雑に合板が打ち付けられた潰れた飲食店という、雑居ビルを前の路地から見上げていた。
 裏通りの、業者しか使わないような路地である。人通りも、店が並ぶ通りほどにはない。元より、通行人には清彦は姿を見せないようにしているのだが。別に目当ての部屋まで瞬間移動してもいいのだが、そこはそういう気分だった、と、いうしかない。無様に合板が打ち付けられた店舗の横の入り口に清彦は足を踏み入れる。

 他にテナントがない、いつ解体され立て替えられてもおかしくないビルの4階だ。隅の方とはいえ歌舞伎町にそんな物件があること自体、この建物が訳ありなのは、何となく察せられるところだが、他に人気がない、このビルの中で4階の一室だけ、部屋の中に灯りが灯っていた。
 中には、30代くらいの男が一人、普段は目立たないようにしているのだろうか? 普通のサラリーマンのようなをしているのだが、この時の、顔つき、口調、醸し出す雰囲気が、とても堅気とは思わせない。名を鷲塚京介といい、牙狼會という半グレ組織の首領をやっている。この部屋は、牙狼會の中でも上部の何人しか知らないような、表には「スマイル企画」などとふざけた小さい手描きの看板がかけられているだけである。
 鷲塚は、普段、表の顔の時はおとなしそうな雰囲気でいるのだが、この時は、よく映画やドラマにあるように、机の縁に腰かけ、行儀悪く脚を組み、電話口に口汚い大声で怒鳴るように話をしていた。

「いつまでもモタモタ引っ張んてんじゃねぇよ。惚れちまったのかあんなブスに! とっとと風呂に沈めて上がりとっときやがれ!!」
 傘下のホストクラブのホストに違法営業についての指示を出したり
「草の上り、持ち逃げされたって?! ・・・あぁ、ちゃんと取っ捕まえたのか。きっちり締めとけ。指の何本かへし折ってな。殺すなよ。いろいろ面倒だし、従順になった売り手は必要だからな」
 など、覚せい剤取引の指示を出したり。まぁ、早い話、冷徹で頭はいいのだが、この鷲塚という男

『クズだな』

 この部屋、いやこの建物には自分一人しかいないはずだが、鷲塚には誰かの声が聞こえた。
「……誰だ?」あえて声を落とし冷静さを装って言い、耳を澄ませた。 と、次の瞬間電灯が切れる。わずかに鷲塚が身構えた次の瞬間には再び電灯はついたのだが

『それじゃ、遠慮なくお金もらってくよ』

 鷲塚には、声が空気の外から耳にねじ込まれてくるように聞こえた。慌てて、鷲塚は金庫のダイヤルを回す。つい数時間前、自分の手で札束の角を叩き揃えて収めたばかりの金庫が、ただの空気の箱になっていた。
 それを確認して「どういうことだ?」と立ち尽くしたが、次に瞬間には思い切り机をけり飛ばす音が他に誰もいない雑居ビルに響いた。


 次の朝。

「ねぇ、彦爺」
などと、蓮は目の前の幽霊、見た目は死んだときと同じ大体30代なんだが、試しにそう呼んでみた。

『おぅ、目が覚めていきなり爺呼ばわりか』

「だって、俺にとっちゃ爺ちゃんと言えば清志郎爺ちゃんだもん。ひい爺さんだと思ってたのは、清司爺ちゃんだし。っていうか、そもそも、生きてる清司爺ちゃん知らないんだけど。彦爺は枠外。」

『孫に枠外呼ばわれされた件。・・・まぁ、いいや。僕をひい爺ちゃんと認めてくれるわけだな。』

 清彦、「バカテス」の次は、「ティアムーン帝国物語」を読んでいたようだ。単行本を閉じて蓮の方を向く。

「長い夢見たんだ。疲れたよ。彦爺が昔の家の縁側で、小さい清志郎爺ちゃんと遊んでるところから、戦場で、脱出して脚撃たれて、死にかけて……。帰ってきたら、家の戸口の前から入れてもらえなくて。行き場をなくして寺に身を寄せて、そして、死んじゃって。そこから・・・、高校生の清志郎爺ちゃんが、寺の片隅で彦爺の墓に手を合わせているところまで――。」

 清彦、一瞬天井を見上げて、ひと呼吸置いて言った。

『う~ん、まずだ、じゃ、僕も君を蓮と呼ぶことにする。蓮もその夢見ちゃったわけだな。』

「誰か他に見た人いるの?」

『清志郎だよ。女房に逃げられた時に、昨日と同じように僕は呼ばれたんだけど、・・・なんか、記憶というか、実際あった出来事を引っ張ってきちゃうみたいだな。僕が知らない場面も清志郎は知っていたりしたから、別に僕が見せたわけじゃないぞ。それだけは言っておく。」


 蓮は、かの時代の苛烈な運命、曾祖父清彦だけじゃなく、佐久間秀幸や、戦場や復員船で死んだ人たち、空襲で家族を失った女性などの運命を思い出してしまい、しばし絶句する。
 あと、清志郎爺ちゃんが女房に逃げられたって、いったい何?


「いろいろ訊きたいことがあるんだけど・・・」

『ん? なんだ? ひい爺ちゃんが教えて進ぜよう。わかる事だけだけどな。』

 蓮は、ちょっとの間、ためらったが、思い切って訊いてみた。

「彦爺が家に入れてもらえなかったときに、どうして、あんなに落ち着いていられたんだ?」


『あ~、それな・・・。うん、わからん。ただ喚いてもどうにもならんと思ってたのかもな。
 戦場ではな、怒鳴り散らしたところで、死んだ奴は誰も帰ってきやしないし、腹がふくれるわけでもない。喚いたやつから死ぬ。声をあげずに飲み込んだやつだけが、生き残れたりしてな。
 家の前に立ったときも同じだよ。僕が吠えたところで、親父も兄弟も、閉めた戸を開けはしない。だったら、静かに引き下がるしかなかった、みたいなこと考えてたのかもしれん。』

 蓮は二の句が継げない。

『あと、家族を、僕のお袋や親父、清司も春江も怨むという感覚は、全然なかったんだ。ただ、・・・なんだろうな? 日本に帰ってきて野宿かよ、とは思ってたかもしれん。』


 うん。その感覚、全然わからない。

『子供の時の清志郎と、もっと遊んでやれなかったのは残念だけど、出征する前から、清司の奴がな、清司の奴がな、春江の髪を直す仕草に、ふっと目をやるのを見たことがあった。ホント、淡~くだけど、兄嫁、春江の事、憧れみたいなものがあったんじゃないかと思っていた。脚無くした僕より、清司の方が春江や清志郎を幸せにしてくれると思ったのかもしれないし、そうじゃないかもしれないし。』


「・・・まぁいいや。全然わかんないけど、彦爺は彦爺だしな。あと、清志郎爺ちゃんがお、奥さん、まぁ、婆ちゃんだけど、逃げられたってどういうこと?」

 確か、朝、帰った来たときにも、その話聞いた。確か…坂本家の嫡男は、代々女が運が悪くって・・・って、いやぁぁぁぁぁぁぁ!

『奈穂子ちゃん、って君の母ちゃんな、が小さい時だよ。確か、他の男と駆け落ちしたんだ。詳しいことは清志郎に訊きな。』

 訊けるかよ。もう清志郎爺ちゃん、癌でいつ死んでもおかしくないのに。いつ「ジイチャン、キトク、スグカエレ」・・・って、電報の時代じゃないな。とにかく、そういう連絡が来るかもしれないってのに。

『あぁ、清志郎な。大丈夫。僕は霊格が高いから、清志郎の病気くらい、何とかなる。』

 このスチャラカ幽霊、何を言ってるのかよくわかりません。


 蓮は冷蔵庫から食パンを2枚取り出し、トースターで焼きもせず、そのまま、マーガリン塗りたくってモソモソ食べ出す。食べ出してから、あ、とか思って、清彦に訊ねる。

「まさかとは思うけど、幽霊はメシ、食わないよね?」

ちょっと困った顔をした清彦は答える。

『ああ、それはいいんだけど、蓮、そんなしょぼい朝飯か?』

「地方出身の学生なんて、金がないんだよ。ちゃんと朝飯食ってるだけ、褒めてくれよ。」

拗ねたように応じる蓮に、清彦はにんまりとして

『しょうがないなあ、我がひ孫は。これで何か美味いもの食え』
と、澁澤を一枚、蓮に差し出す。
『孫の奈緒子ちゃんにはそういう機会なかったけど、こうやって小遣い、渡してみたかったんだよねえ』

 蓮は困惑する。
『どうした。どこぞのお笑いタレントみたいに、美味いもん食え、で、割り箸渡してるわけじゃないだろ?』
 そういう清彦に蓮は
「いや、どうして、幽霊がお金持ってるの?」

 清彦はそれには答えず、ニヤリと笑うだけ。もう、なんかね、嫌な予感しかしない。


「彦爺、さあ、大学ついてくるの?」

『何、うちのひ孫は付き添いして欲しいような甘えん坊さんかぁ?」揶揄ってきやがる。

「ちげーよ!」

『あはは、冗談。流石に四六時中憑いてまわられるのも嫌だろう。心配するな。よ!』

 掛け声ひとつで、それまで、国民服を着た半透明の幽霊が、現代のその辺にいる成人男性が普通に着ている服装に変わり、半透明じゃなくなった。ついでになくなったはずの脚もちゃんとついていた。

『僕ほど霊格が高いと、こういうふうに実体化もできたりするわけよ。これで、東京観光してくるわ。』

 付き纏われるわけではないことにホッとする蓮。

『ああ、この際言っとくけど、一度こうやって目の前に現れた以上、そこにいるのに完全に透明になって蓮から見えなくなる、ということはないみたい。清彦の時はそうだった。蓮の近くに僕がいないんなら、本当に僕は他所に行ってると思って。 まあ、余程の危機一髪の時は、飛んでいくよ。』


「っと、そうだ。昨日寝る間際、仇討つとか言ってたけど、何かした?」
 恐る恐る蓮は尋ねた。

「・・・あぁ、蓮を降った女のコな。相手の男と一緒に〈靴の中にずっと小石がある呪い〉と〈毎日身に付けてるものが2センチ破れる呪い〉かけといた。」
 とスチャラカ幽霊は答えた。

 うわぁ、なにその地味な嫌がらせ・・・。

2025年7月12日土曜日

《創作》寝取られ幽霊 第1話 守護霊登場

 


 「おい、坂本君。もう上がっていいぞ。時間だろ。」

 30代位だろうか、雇われ店長が、厨房の奥でひたすら丼ぶり、皿洗いをしていた蓮に声をかける。食洗器が壊れてしまったということで、修理が上がってくる2週間、臨時で雇われた終夜営業のうどん屋でのバイトのことだった。
 今日で蓮のバイトは終わる。

 「なぁ、バイト続けてくれること、考えてくれたか?」
 店長が問う。正直、いくら若いからと言って、ずっとほぼ徹夜のバイトをレギュラーで入れるのは、学生の身の蓮にはキツい。どうしても買いたいものがあったから、このバイトを入れたのだが、端から続ける気はなかった。
 「すみません。」


 分かってたよ、とでも言いたげに店長は右の掌をひらひら振った。他の店員が、店じまいや売り上げの計算を始めている。バイトの蓮にはそこまでは求められていない。午前5時まで。もう、5時10分だ。

 「給料は、明後日振り込まれるから。ご苦労さん」

 店長はそれでも気を悪くする風でもなく、蓮に言った。


 厨房着から私服に着替え、一言「お世話になりました~」と店内の誰に言うでもなく挨拶して店を出た。雨が降っていた

 厨房の熱気で毛穴がふさがったような感覚から雨がひんやりとした空気に触れる。決して厨房の中は快適ではなかったが、仕事が終わって外に出て外気に触れる、この解放されるような感覚が、結構気に入っていた。

 蓮がこのバイトに就いたのは、ガールフレンドの絢美に誕生日のプレゼントを買うためだった。とか言いながら、実はまだ何をプレゼントするか決めてはいなかったのだが。何を買うかは決めていなかったが、決めないまま渡しても絢美なら笑って受け取ってくれる。そう思っていた。
 バイト先の終夜営業のうどん屋から、下落合の蓮のアパートまで、自転車でもあればいいのだが、さしあたりそんなものは持っていない。JR等を使うのにも中途半端な位置関係だ。どうせ一駅。蓮は、何を買おうかな、と、小雨が降っているというのに傘もささず、少々浮かれ気味に、いつものようにラブホテル街を抜ける。

 角を曲がったところにあるラブホテルの出口から、一組カップルが出てきたところと鉢合わせしてしまった。いつもは気まずさがないようにせめて道路を挟んで反対側を歩く蓮だったが、その日に限ってそうしなかったために、カップルとはまさに、ばったり、だったわけで。

 カップルの女性の方が、蓮のガールフレンド、篠原絢美だった。蓮は、目の前で何が起きているのか理解できなかった。絢美は気まずそうに一瞥くれると、男と共に去っていく。
 何か言わないといけないのではないか? 何を言えばいいのだ? 言わない方がいいのか? それよりも膝から下、力が入らずにその場でへたり込みそうになる。
 状況を受け止めるまで何分、蓮はなんとかそこに立ち尽くしていたのだろう?

 小雨とは言え、もう、蓮はずぶぬれだ。帰らなきゃ、少し寝て大学に行かなきゃ、と、半ば機械的に思い、よろよろ歩き出す。


 帰り道、深夜から早朝にかけての時間、いくら交通量が少なかったとはいえ東京だ。よく事故に遭わなかったものだ、と言うくらいの夢遊病者のような足取りで、ようやく部屋に帰り、しばし呆然と入り口に立ち尽くしていたが、靴を蹴飛ばすように脱ぎ、部屋に上がり、Tシャツとジーンズを脱ぎ捨て、パンツ一枚で洗面所の前に立つ。
 鏡に映ったひどい顔。途端に吐き気が襲う。かといって、吐くようなものもそれほどない、唾液、いや胃液か、と鼻水と涙に塗れた、あぁ、なんてひどい顔だ。もう一度そう思った。

 ふと、横を見た。男が立っていた。蓮の目が慣れてくると、男の目だけが異様に光っているように見えた。
 蓮の、半ば朦朧としていた意識が一気に覚醒する。

 「どわ!」

 何と表記していいかわからぬ短い叫び声を蓮は上げ、反対側に横っ飛びするが、ユニットバスの縁に脚を引っかけ、倒れ込み頭をしこたま打つ。


 『おいおい、落ち着けよ、蓮君』

 人が発する声ではない、頭に直接響いてくる念のような声が聞こえる。痛みで頭を抑えながら男を見ると、果たして、向こう側が透けて見える。
 この年代の男の子、しかも、決して陽キャとは言えない青春を送っている蓮は、ラノベサイトを当然のようによく見ていて、NTRモノと言われるジャンルの中で語られる「脳破壊」と言う言葉を思い出してしまった。あぁ、これのことか、と、思ったが、

 『そんなんじゃないよ。君の目の前にいる僕は正真正銘、幽霊、っていうか、君の守護霊、実の曽祖父の清彦です。よろしく。』

 いや、ちょっと待て。熊本の実家に仏間に抱えられているひい爺さんの写真はこいつとは違うぞ?

 『あぁ、清司のことか。あれは僕の弟だ。まぁ、説明するから、まず服を着なよ』

 ??? もう何が何やら。それにしてもしこたま打ち付けた頭がじんじん痛い。


 『手間がかかるひ孫だな。これで治るだろ。』

 清彦と名乗る幽霊が手をかざすと、ぱたりと痛みが収まった。


 パンツ一枚だったが、とりあえず部屋着のスウェットを着込み、すでに座卓の向こう側に腰を下ろしている幽霊の差し向かいに座る。


 『初めまして。君の曾祖父の坂本清彦です。』
 幽霊はニコニコしながら名乗った。だから分らないって。ひい爺さんだとずっと思っていた、今も思っている清司じゃないのはどういうことだ? 今坂本姓を名乗ったよな、ってことは、婿養子に入った父方の曾祖父でもないという事だし。
 蓮は黙っている。何を言ったらいいのかわからない。

 『ガールフレンドに二股かけられていたことが分かっちゃった君に、何から言えばいいのか分らないが―――』

 いきなり核心ついてきやがりましたよ、この幽霊!

 『君の爺さんの清志郎の実の父は、紛れもなくこの僕だ。で、清志郎が女房に駆け落ちで逃げられた時も、僕はこんな感じで呼ばれてきた。』

 うん、爺ちゃんの名前は清志郎だ。確かに。って、衝撃の新事実! 若いうちに死んだと聞かされていた、ばあちゃん、他の男と駆け落ちしただってぇ!


 『坂本家の代々の嫡男は、どういう訳か女運が最悪でね。君はまだ、学生で結婚なんて程遠い所にいたから傷は全然浅いはずだ。』

 何、それ、ねぇ、ウチの家系呪われてんの? 嫌すぎるんですけど!

 『斯くいう僕は、ビルマ戦線で軍医として従軍したんだけど、戦闘員もやらなくちゃいけない場面があって、その時に右脚を失った。』

 そういって、蓮の目の前で、脚がある幽霊の右脚だけ、木の棒でできた義足に変わった。

 『撤退中、ロヒンギャ、ってわかるよな、大学生なんだし、そのロヒンギャに匿われていたんだが、そのせいで復員が特に僕だけ3年遅れてね。竹山道雄だっけ「ビルマの竪琴」みたいな、あんな感じ。いや、別に坊さんになって死者を弔うつもりはなかったんだけど、匿ってくれたロヒンギャの事情でね、帰ってくるのが遅くなってしまった。』

 蓮は、いつの間にか、清彦と名乗る幽霊の言葉に聞き入ってしまっていた。

 『まぁ、ね、人より復員が遅れたんだったら、戦死したと思われていたとしても仕方ない。僕の親父やお袋も坂本の家を繋げなくちゃいけない。僕の嫁だった春江と弟の清司が所帯を持つことになって、戦争に行く前、君の爺さんの清志郎は僕の実の子だけど、君にとっては大叔母にあたる3人は、春江と清司の子だ。』
 清司と春江、確かにひい爺ちゃんとひい婆ちゃんの名前だ。するってぇと、なんだ? 目の前のオレの実のひい爺ちゃんといってる清彦と名乗る幽霊は、戦争にいって、脚を亡くした挙句、帰る場所も弟に奪われて無くなったってことかっ!?
 強烈な怒りに似た気持ちで、思わす蓮は立ち上がってしまった。その割には、呟くような声で


 「なんなんだよ、それ?」

 落ち着いた感じで清彦は言う

 『別に、春江も清司も、親父やお袋も怨んじゃいないさ。彼らは悪くない。悪いのは・・・わかるだろ?』


 へなへな、と蓮は再び座り込む。

 途端に、急に眠気が襲ってきた。バイト明けでNTRかまされて、幽霊が出て来て、生まれてこの方一番のジェットコースターな日だった。NTRされた辛さとか、どこかに吹っ飛んでしまっていた。

 『もう寝なよ。少し寝て大学行くんだろ? ひい爺ちゃんが、君の仇を討ってきてやるから』

 「なん、だよ、そういうのやめて、くれよ。」
 蓮はもう限界だったが、一時期、ラノベのNTRものにハマったことはあったのだが、復讐がテンプレの展開に、裏切られたからと言って、ガラッと復讐に転じるなんて、尻軽に他の男に乗り換える女の子と同じレベルじゃないか、と、ある時思い至ってから、興味がなくなっていた。復讐って、なんか、みっともない、というか正直退く。

 って、本当にもうだめだ。おやすみなさい。布団もかけずに、蓮は座卓の横で沈没した。

 ―――雨の匂いが、まだ髪に残っていた。