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8271 Ayrton Senna da Silva_27
本来京都の北山というと結構広い範囲を指すのだという話を聞いたことがある。岩倉から鞍馬、花脊、雲ケ畑もそうだ、と、誰かが言ってたような気がするが、まぁ、バブルの頃はそんな山奥まで行かない、植物園の北っ側の、京都にしてみれば割と新しめの区画整理がされたあたりを指していた。景気がよかったころだから、京都中心地の若旦那が金に物を言わせて、なんか変な建物建てたりスカしたブティック何かが結構立っている地域だった。今はどうなんだろ? 最初の成り立ちから言うとそうじゃない気もするし、案外そのまま今まで来ているような気もする。
建築中の鉄骨3階建ての1階、半地下みたいになってるスペースにコンクリートブロックを何百個かオレと50手前のおっちゃん2人の人力でトラックから運び込むというのがその日の仕事で。
初夏であったから、そこそこ暑かったはずだ。で、汗かきのオレであるから真夏のように汗をかき、その日の相棒のおっちゃんや元請けの監督に揶揄われていたはずだ。今もそんな感じだから多分そうだったのだろうという程度の記憶。晴れてはいた、快晴だった。それは間違いない。
それにしても前夜、オレはテレビを持っていなかったが、隣室の男の部屋から聴こえる、F1中継の音である。いつもにもまして大騒ぎだったけど、何を言っているかわからなかったけど、イマミヤさん、泣き叫ぶような声だったのは聴こえた。何かあったらしい、尋常ならざること。コンクリートブロックを手で運びながら、ずっとそれが気になっていた。
とはいえ、夕方になるまでそれが何だったか知るすべもなく、夕方帰りのコンビニで売れ残りのスポーツ新聞を買ったか何かして、漸く前の晩のイモラ、タンブレロでの大事故を知る。この時点では情報はまだ錯綜しており、希望的観測もなくはなかったが、しかし、レスキューが駆けつけた時には黄色の「彼」のヘルメットからは脳漿があふれ出しており即死であったらしい。2,3日の内にそれは明らかになる。
彼のFW16は、流行りの吊り下げ式ウィングのハイノーズではなかった。そうであったならもっと象徴的だったかもしれないが、雄々しいファルスがへし折られたのだ、と、何が時代の大きな潮目を感じてしまった。
彼の死について、間違いなくショックではあったけれど不思議と悲しいという感情は大きくなかった。ただ、大きな挫折も停滞すらも良しとせず、何よりも前進を第一とした意志の結末に出会ったような気がした。これから人類の何かは坂道を、場合によっては転がり落ちるようにして降りていくのだ、そのように感じた。オレにとってのその時の日付は1994年5月2日。現地時間では5月1日のことだ。
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